読書録 『Process Visionary - デジタル時代のプロセス変革』

Process Visionary』は、日本ではまだ認知されていないプロセス変革のリーダー、ビジネスアナリスト/Business Analyst の役割、育成、活躍の場の紹介がされています。IT部門で働く方だけでなく、企業経営者や、各ビジネス部門、バックオフィス部門で、業務プロセス・環境課題解決に当たっている方にも読んでほしい1冊です。
 Process Visionary - Amazon


著者 山本 政樹 / 大井 
出版社 プレジデント社
分類 ビジネス書
発行日 2019年9月27日



1. この本を読むきっかけ

ビジネスアナリストという職種を知ったのは、大学院(AIIT)の講義でした。
ビジネスアナリストは
IIBAが定義するBusiness Analysisを実行する専門職とされています。具体的にはビジネス目線でビジネスの要求(=ニーズ)を分析して、その解決策(=ソリューション)を考えプロジェクト化する役割です。
BABOKのプロセスを学ぶ中でこの職種に興味がわいてきました。というのも、これからのIT部門は運用だけでなく、その組織が達成したい戦略やビジネス要求に耳を傾け、彼らが目的を達成できるような環境を用意することが重要だと考えていたからです。日本ではこのロールは独立しておらず、一般的にPMやIT Architectといった人が分業で関わっていることが多いのではないでしょうか。
しかし、具体的にどのような現場でどんな人がどのような取り組みをしているのか、またそのキャリアデベロップメントについて説明された日本語の情報は少ないのが現状でした。そんな中、満を持してこの書籍が発売されました。

2.ビジネスアナリスト誕生の背景
ビジネスアナリストの誕生の背景には、デジタル技術普及により2000年前後に急速に進められた、数々のシステム導入失敗があるそうです。これらのプロジェクト失敗の主な要因は①ビジネス側からの情報が不足②要求や仕様が不完全③要求や仕様変化といったビジネス側の要求に起因することが分かっています。これらのことからビジネス部門からの要求を分析する手法=要求分析が注目されるようになったのだそう。

3.ビジネスアナリストが果たす役割
ざっくり行ってしまうと「要求を出す部門」とそれを「推進する部門」の”通訳”であり、ビジネス目線で要求分析と解決策提案をする”コンサルタント”なのだろうと理解しています。
ビジネスアナリストが果たす役割については、本書では以下のように説明されています。

”客観的な立場で業務・サービスの問題分析を行う
多くの関係者から上がる要求をまとめ、新たなビジネスプロセスを設計する
ソリューションを開発するエンジニアに要求を伝え、要求通りのソリューションとなっているか検証する
取り組みに関係する部門・組織のコミュニケーションハブになり、関係者の協力体制を構築する


4.ビジネスアナリストの種類と活躍の場

 同書籍で紹介されているIIBA Global Business Analysis Salary Survey 2018の調査では、ビジネスアナリストの所属先としては、IT部門が46%、ビジネス部門34変革部門が15%その他が5%とIT部門が役半分を占めていることが分かります。上記のビジネスアナリスト誕生が、システムデジタル化プロジェクトを推進するのは企業のIT部門であったこと、またその研究対象・要求分析がソフトウェア工学の一部であったことを考えると、IT部門にビジネスアナリストが集まるのも納得です。
(ビジネスアナリストの所属先 : IIBA 2018 Salary Surveyを元に作成)

1)IT部門に所属するビジネスアナリスト 肩書:ビジネスシステムアナリスト/Business System AnalystITビジネスアナリスト/IT Business Analyst
この人の役割は、ビジネス要求をエンジニアが設計・開発できる段階まで具体化します。またテスト段階ではビジネス要求が達成されているか(=ソリューションが要求通りの挙動かどうか)をチェックします。また、ユーザーのトレーニング資料作成やトレーニングを実施するのもビジネスアナリストの仕事です。

2)ビジネス部門に所属するビジネスアナリスト
肩書:ファンクショナルアナリスト/Functional Analyst
この人の役割は、特定の業務(例えば、経理、人事、マーケティングなど)の領域における、そのプロセスの問題を見つけ、改善提案と実施、その後の改善活動が維持されているかを監視することです。よって、このビジネスアナリストは、その業務領域の知識や経験、プロセスの全体に精通していることが求められます。

3)プロダクトアナリスト
肩書:プロダクトアナリスト/Product Analyst
サービスのビジネスモデルと顧客の期待を理解したうえで、顧客視点で対象プロダクトサービスの改善、提案活動を行います。なんとなく、Agile開発のスクラムで、プロダクトリリース後のProduct Ownerに近い目線なのかなという印象です。

4) 変革専門部門に所属するビジネスアナリスト
肩書:エンタープライズビジネスアナリスト/Enterprise Business Analyst
同書では1)-3)に上げたビジネスアナリストの上位の職務に位置すると説明されています。
経営戦略に基づいて、部門横断で大規模なプロセス変革プロジェクトに携わるので、社内の様々な部署にビジネスアナリストがいるような企業ではリーダー的位置になるそうです。
確かに、単体部署内完結のプロセス改善ならばともかく、今では様々なシステムが複雑に連携しており企業全体で取り組む活動も多くなってきているので、ビジネスアナリストのキャリアパスとしては納得です。

5)その他のビジネスアナリスト
ビジネスアーキテクトは経営者の傍らで変革を企画するビジネスアナリストですが、ビジネスアナリストの世界ではここに含まれるのかどうか議論が分かれているんだとか。それ以外にはデータ分析が専門のビジネスインテリジェンスアナリストや、従来の要求分析や解決策の後プロジェクトにも積極的に関与して開発に携わるハイブリットビジネスアナリストなどがあるようです。

5.コアコンピテンシー
同書によるとBABOKのビジネスアナリストに求められる基礎コンピテンシは次の通りです。
PMIPMBOKでもProject Managementを職務とする人(Project Manager)に求められるコンピテンシと一部被る部分もあります。いずれも先天的に備わっている能力ではなく、トレーニングや経験によって備えていけるものといわれています点では、ビジネスアナリストを目指す人のキャリア形成で参考になるのではないでしょうか。



6.まとめ

Project managementのBest PracticeであるPMBOKでも、PMの関わりはProjectの立ち上げ段階から始まっています。主要なステークホルダーからのビジネス要求をインタビューやアンケート、ディスカッションを通して探ります。なぜこの役割をPMがやるかというと、それはその後承認されて遂行されるプロジェクトを成功裡に導くためには、ステークホルダーの真の要求を理解し、その要求を実現するソリューションを届けることに責任があるからです。

この数年間で、様々な業務の課題を解決するSaaSがリリースされています。例えば、経費精算や、人事管理、マーケティングツールがそれにあたります。また、サブスクリプション契約により、従来のシステム開発のような導入費用を抑え、システム化への金銭的ハードルが下がってきました。
 
そんな時代背景から、ビジネス部門がIT部門を挟まず、独自でシステムの導入検討を進めるようになりました。私がいた企業でも同様のことがあり、結果は成功したとはとてもいいがたいもので、システム化したことでかえって現場のプロセスが複雑化し、ビジネス部門の要求も満たせきれないものばかりとなりました。同本でいうところの「システム化失敗」案件といってもいいでしょう。
関係者にそれとなく聞きまわってみると、要求伝達ミス、ステークホルダーによる要求変更などが起きています。これらのプロジェクトを遂行するのは中間管理職や中堅社員です。彼らは現場の中核要因として日々の業務やプロジェクト、後輩育成に追われてて既にリソースは100% 越えています。一方で、新たなビジネス変革やプロセス変革要件収集分析、正確に開発に伝える役割を負っています。こんな多忙きわまる中で更なるプレッシャーにさらされていては、十分に考える時間も確保できず、プロジェクトの失敗したり、最悪人が倒れていっても不思議ではないなと思います。
この時を思い出すとビジネス部門と開発部門(もしくは外部のコンサルティングやシステム会社)との間に、どちらの立場でもある程度話ができる要員がアサインされていれば、もっと2つの間の理解の溝を埋めて目的達成に近づけたのでは』と苦い思いがします。特にこの時の私はうまくいかない様子が既に垣間見えていただけに、です。この時の私は、別のプロジェクトが炎上しており物理的制限により期日は動かせず一方、その現場の変革プロジェクトも上層部へのスケジュール変更案承認得れず遂行せざるをえなかったそうです。

同書でも、企業・組織などのビジネスプロセス変革を支援するには、企業の経営者、役員がビジネスアナリシス活動を専門職として認め、自社で育てていくことが大事と説いています。一部メディアで取り上げられる『日本の底力』、『日本の現場力』、『やっぱり日本はすごかった』などという言葉に惑わされず、また高度経済成長期の成功談にこだわらず、今の組織の課題にはどういった組織構成や要員、スキルで対処していくべきかを考えていきたいものです。

コメント