読書録『異文化理解力』


異文化理解力』は、複数の国の間で生じる亀裂、衝突を文化的な背景を元に読み解き、隣人たちの振る舞いや発言からうまくやっていくためのアイデアが紹介されています。必ずしも日本人はこう!とか中国人はこう!と言うわけではないけれど、文化背景を理解することで、様々な国籍の人と働くうえで広い視野を手に入れるキッカケの入門書です。
周囲に外国人の同僚や友人が出来た、という方は読んでみてはいかがでしょうか。逆に周りが日本人だけしかいない方は読む必要がない種類の内容です。


本のタイトル
The Culture Map - Breaking through the invisible boundaries of global business
異文化理解力 - 相手と自分の真意がわかるビジネスパーソン必須の教養
著者
Erin Meyer
出版社
英治出版
分類
ビジネス書
発行日
2015年8月25日(第一版)

目次

  1. この本を読んだキッカケ
  2. カルチャーマップ:仕事上の異文化理解に役立つ
  3. イギリスとオランダ間の解釈は真反対?
  4. 日本で働く中国人メンバーと日本人リーダーの文化認識不足による失敗例
  5. 異なる文化出身者と働く際の戦略
  6. まとめ 

この本を読んだキッカケ

人から勧められて読むことになりました。その人は、日本とアメリカに拠点を持つスタートアップ企業で働いており、日本、アメリカ、スペイン、フィリピン、イタリアなど様々な国の同僚に囲まれており、日々壁にぶつかっていたところこれを読んで彼らが何を考えているのか、自分がどんなバイアスを持っているのかが分かったのだそうです。


かくいう私はというと、10数年外資系企業で
、香港、オーストラリア、イギリス、アメリカの人々と仕事をしてきた中で「考え方の違いは文化や個性に基づくものである」という認識が出来上がりました。とはいえ、具体的にどう対処するべきかがわからず、行きついた答えは「わからないことは、質問し続けて明確化する」ぐらいでした。この方法は、ハイコンテクストな国にとっては冗長ととられることもありました。そこで簡潔にまとめてみると、今度は同じハイコンテクストの中国圏と日本でも、それぞれの国のとらえ方が違うためアクションしてもらえないこともありました。各国の文化背景を知ることで少しでもコミュニケーションが円滑になるならば、読んでみようと思った次第です。
 

カルチャーマップは仕事上の異文化理解に役立つ

カルチャーマップとは、マネージャーが自覚しておくべき八つの文化的指標が、自身の文化と対象者の文化と相対的にどういった位置関係にあるかを知るための文化見取り図のことです。


 図) 日本・中国・ドイツのカルチャーマップ


著者は、自身の文化から見て当該の文化がどちらにあるかによって、受け取り方が異なるといっています。例えば、ハイコンテクストやローコンテクストという単一の指標だけで分類すると、日本と中国はハイコンテキストで近いのですが、決断という指標については真逆にであり、日本は最も左に位置する合意志向で、中国は日本と対極の最も右のトップダウン型です。この二つの指標だけでも一見同じようはハイコンテクストの国でも意思決定のスピードや抑えるべき人や組織に差が出てくることが分かります。

カルチャーマップは、国際社会で活躍するマネージャーに有効なコミュニケーションツールであり、これをうまく活用することで、メンバーの士気を上げたり、顧客を喜ばせたり、多拠点複数国とのビデオ会議を成功させることが出来るそうです。 

 イギリスとオランダ間の解釈は真反対?!

文化差異に関する失敗実例を話す前に、イギリスとオランダの解釈の違いを示した実に面白い英蘭翻訳ガイドがあるので紹介します。イギリスとオランダは日本から見てローコンテキストな文化圏ではありますが、オランダは最もローコンテクストな国の一つです。オランダから見たイギリスはハイコンテクスト寄りに位置します。オランダ文化ではネガティブなフィードバックは直接的な表現でオープンに行われるのに対し、イギリスではネガティブフィードバックは間接的遠回しで表現されます。
同じ欧州エリアにおいての文化の違いが大きな認識の違いを生むという良い例が取り上げられています。


もはやネタというレベルの解釈の違いです。私の仕事ではオランダ人との関わりはありませんでしたが、イギリス人やイギリス文化の影響の濃い時代の香港人はこういった遠回しな表現を使っていたのを覚えていますので、あながち外れていないのでしょう。

日本で働く中国人メンバーと日本人リーダーの文化認識不足による失敗例

本書を読んでいて、カルチャーマップを意識していれば、外国籍のメンバーとの関係ももう少しうまくやれかなあと、数年前の苦い出来事が頭をよぎりました。その出来事はこうです。

ある日、日本で働く中国人のメンバーが、One on One meetingで彼が感じている業務環境の不満と要求を出してきました。その要求はチームリードである私だけで決定できることではなく、時間をかけて上司や関係者に合意(=根回し)を取ったり協力を仰ぐ必要がありました。彼にはその旨伝えて、実現できるかどうかも踏まえて次のOne on One Meetingに知らせると伝えその場は閉会しました。次の(2-3か月後)One one Oneでは、彼の不満を解消できたところと、実現できないところを伝えました。明らかにその結果に怒りを感じているようでしたが、発言を促しても何も出てこず終了。その翌週、私は上司から彼の退職希望と私のリーダーシップ(意思決定の遅さ)についての不満をきくことになりました。
この件を、カルチャーマップで当てはめると、彼の文化では①リーダーは絶対的でその意見はいかなる場合も”正しい”ものであり下の立場の人間はそれに従う②リーダシップはトップダウンであり、意思決定は迅速に行われるもの、という考えに照らし合わせると理解できます。私自身もまめなアップデートや文化の違いについて理解してもらうよう働きかけの仕方はあったのではという気もしています。

 


異なる文化出身者と働く際の戦略

日本は日本国籍の労働人口が先細りである一方で、海外からの労働者が増加してきています。
今までは純粋な日本人コミュニティーしかかかわりがなかった人も、仕事やプライベートで外国籍の人と交流する機会が増えてきているのではないかと感じています。特に中堅以上になると今後外国籍の従業員を受け入れてマネージしていく立場になることもあり得るでしょうし、逆に外国籍の上司が突然現れることもあるでしょう。そういった場合には、どのような戦略を取るのが良いのでしょうか?
本書では主に3つのシチュエーションに合わせた戦略を提示しています。

①自分よりもハイコンテクストな文化出身の人々と働く際の戦略
②自分よりローコンテクストな文化出身の人々と働く際の戦略
③多文化間の共同作業の戦略

詳しくは本書で読んでいただきたいのですが、③の多文化間の今日作業の戦略について簡単に紹介します。プロジェクトベースの多国籍チームの場合は『チーム憲章』づくりの例が挙げられています。話し合いの内容はお互いの文化に触れず、メンバーたちが互いに協力するためにどういった方針やルールを設けるか重要だとされています。チーム憲章があればお互いのバックグラウンドではなくこのルールに沿って動くことを言語化し、そのチームの文化として受け入れできるため、チーム運営開始後の動乱期における不満を和らげることが出来るとしています。

具体的な話し合いのトピック
  • 電話会議やミーティングをどのように行いたいか
  • どんな時間の考えに従って取り組みたいか
  • どう一緒に働きたいか
  • 会議中は相手にどの程度柔軟であってほしく、またどの程度スケジュールに沿ってほしいか

もしプロジェクトではなく日常的なオペレーションチームに当てはめる場合には、チームとしての憲章を作ってもいいし、会議の運営ルールを明文化したり、チームの組織図や役割を可視化することでもうまくいくでしょう。

 

まとめ

異なる文化を持つ職場に自分が入っていく際によく「郷に入っては郷に従え」といいます。本書でもっとも参考になったのは、現地の文化に適応は、現地の人と同じように振る舞うことではないということです。例えば、私がステレオタイプのアメリカ人は「オープンで率直な物言いをする」と誤解していたとします。そこで私がアメリカで仕事をしていたとそして、アメリカ人の同僚に率直かつストレートなネガティブフィードバックをしたとしましょう。相手は驚き私のフィードバックに配慮が足りないととらえるかもしれません。確かに、日本と比べたら明確さを持った直接的表現を使われることはありますが、そこにも限度や程度が存在するのです。逆もしかりで、仮にアメリカから来た同僚が日本の”空気読み”をやろうとした結果期待されている意見などを言わず”消極的すぎる”と日本人の上司や同僚にとらえられて過小評価される可能性だってあり得ます。
だからあくまでも、現地化ではなく①現地の文化で期待されているリーダーシップに寄せていくことや②自身のリーダシップに関する文化背景が現地の文化がどう異なりどう影響を与えるのかを、のメンバーたち発信し理解してもらうといったアプローチが有効だととらえました。

日本は、欧米や他のアジアの国々と比べても最もハイコンテクストな国と位置付けられていますので、純粋な日本文化で働いてきた人には、本書内の「ハイコンテクスト文化の人と働く戦略」を読んでみて、自社や自身がその戦略が濱理想化を見てみると面白そうです。
昨今ではIT企業の台頭から、ステレオタイプの日本の企業ばかりではなくなってきています。実際に、創業50年の従業員1万人の日系企業で働き続けている人と、創業10年程度で従業員100名程度のベンチャーでは企業カルチャーが異なるでしょう。また日本国内で外資系企業で働いていた人でも、日常的にどのような文化圏の人とやり取りしているかで知らず知らずのうちにその文化に適合している場合もありますので、今後の”日本”の文化はどのように変化していくのか興味深いですね。

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