読書録『会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション』


会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション』はビジネス会議だけに限らず、日常のコミュニケーションにおいても会議の参加メンバーから意見やアイデアを効果的に引き出し、意味のある議論へと道ギブための実践的な5つの技法が会話サンプルとともに紹介されています。


本のタイトル
会議の生産性を高める 実践 パワーファシリテーション
著者
楠本 和矢
出版社
すばる舎
分類(ビジネス書、技術書など)
ビジネス書
発行日
2019/2/10

この本を読むきっかけ

私の所属する大学院の研究活動は、基本的にプロジェクトベースのためチーム活動です。
学部時代の単独研究と比べると、チーム内の議論活性化や合意形成といったファシリテーションスキルが日々求められます。特にチーム形成期(タック万モデルのForming)においては、各メンバーがどのような背景を持ち、どのようなキャラクターかがわからず、発言を遠慮するメンバーが数名見られました。また、一見穏やかに見えて、自分たちの目指す道への不安や緊張感から、すぐに教授に意見を求めるといった様子見雰囲気が数週間続きました。
私自身は外資系企業文化の在籍が長く、意見を出さないことは会議への貢献がない、ととられるカルチャーもあったので、発言がないことが不思議に思っていました。しかし、人によっては考えて、考えて、考えて、発言に至る人やそれでもその場では意見を出せないということもあるのだと、実感しました。
しかし、社会人学生にとっては時は金なり。どうやったら、効果的に集りの中で意見を引き出し、合意形成に持っていくことが出来るのか、考えているうちにこの書籍に出会いました。

本書で紹介されている5つのファシリテーション技法とは?


本書では次の5つのファシリテーション技法が紹介されています。それぞれ簡単に紹介します。

技法① 議論の構成をデザインできる

技法② アンテナを立てて、適切な問を立てることが出来る

技法③ 出ていた意見を整理できる

技法④ グラフィックを効果的に使える
技法⑤ 議論のスタックから抜け出せる



技法① 議論の構成をデザインできる

この技法は、その会議や集りの目的を達成する為に、会議のゴール、アウトプット、会議のプロセスを設計すること、です。
企業活動の会議では、アジェンダを作ることが多いかと思いますが、そのアジェンダをさらに発展させて、会議構成を汲むことになります。私の印象としては、先にこの構成をデザインして、その完結版がアジェンダになるようなイメージを持ちました。
この会議構成デザインには5つのSという会議モジュールが紹介されています。

 
Share/共有 - 本会議テーマの目的達成に必要な前情報の共有。
 Set/定義 - 次の議論のぶれ幅を少なくするための、抽象的な表現、曖昧な意味を持つ言葉を定義。
 Spread/発散 - いわゆるディスカッション、アイデアブレインストーミングといった、広い視点でアイデアを出す議論。ファシリテーターの活躍どころ。
 Solve/解明 - 何らかの事象の発生原因や要因を分析。発散は多くの視点からアイデア出すのに対し、要員探索のための切り口を抜けもれなくだし、主要因を特定することまで実施する。ここもファシリテーターの活躍どころ。
 Select/選択 - その会議で議論したテーマの合意形成や意思決定をすること。選択の基準をきめることが重要。

ちなみに、私が実際の
Lean Camvasを使った事業案のアイデアブレストをやってみたときには、Share Set → Spread →Selectの順で実施しました。会議の種類によって上記のモジュールをうまく組み合わせてみることで、メンバー全員が必要な情報を持った状態で議論に挑めました。

技法② アンテナを立てて、適切な問を立てることが出来る


ファシリテーターの仕事は、会議やその集まりの目的を達成すべく、効果的なコミュニケーションを促進し、時に上下関係関係なく会議を正しい道筋に戻す必要があります。この技法では4つのアンテナとして、議論の方向修正、議論促進のための質問の立て方について紹介されています。
議論のずれを直す、意味不明な意見の取り扱う、視点を広げる、
深堀する


技法③ 出ていた意見を整理できる

実はここが最も私が気になっていたところです。会議ではいろんな意見は出るものの「えっと・・・それで?」となってしまい、合意形成に向けたアイデア発散後の整理迄至らないことがあります。
技法③の章では、議論を整理するための思考方法やフレームワークの活用例が紹介されています。しかも、5つの各会議モジュール別に紹介されており、図表や実例が紹介されており使うケースをイメージしやすいかったです。
たとえば、論理思考の本で良く紹介されるロジックツリーは、議論の切り口が一つ、もしくは概念的で広い意味の場合に使えますが、既に前の議論(解明や定義など)で複数の検討事項が出ている場合には
マトリクス強制発想法やフローチャートといったツールの活用も検討に入れることになります。

技法④ グラフィックを効果的に使える


これは議論を可視化し、ホワイトボードやオンラインのボードなどの全員が閲覧可能なツールに、今の議論を整理していく技法です。具体的に記載することは、会議の段取り、議論の「問」い、意見の整理といった内容となります。
ホワイトボードなどの可視化ツールに記述する効果としては、意見と発言者を切り離して記載できるので、議論の途中でだれが話したかが曖昧になります。これにより、発言者との関係性を意識せずに、他の人のアイデアを押すといったことが出来るようになるそうです。これは今まで全く意識していなかったのですが、確かにこういったことを気にする方もいるのだなあということを最近知ったので、妙にうなずけるホワイトボードの効果でした。

技法⑤ 議論のスタックから抜け出せる


本書によると、議論がスタックする例として、意見対立が起こった例を挙げています。この意見対立がなぜ起こるのかというと、以下の4つに分類できるそうです。それぞれの対処を簡単に紹介します。
①議論の目的のずれ
→「何のためにその議論をしているのか?」という視点でずれを直す。
②選択基準のずれ
→「選択基準はその目的を達成する為に適切なものか?」を考え、必要に応じてフレームを活用して抜けを探し基準を見直す。
③情報量のずれ
→会議モジュールのShareでメンバーが正しく理解するための情報を提供し、目的の達成のための情報量の偏りを減らす。
④前提等の定義のずれ
→曖昧な言葉があるかもしれないので、その言葉はどういう意味かをメンバーに言語化してもらう。
たとえば「高い品質」とはどの程度の品質なのか?「顧客の満足度」とはどんな顧客だとどこに満足するのか?などが感がられますね。

 

まとめ


本書を読んで早速大学院のプロジェクト活動に活用してみました。
会議の構成を設計して議論に必要な環境の整備をして会議に挑んだところ、脱線や議論の停滞をうまくントロールして納得のゴールにたどり着きました!
当日は、冒頭で会議の目的やゴール、成果物までイメージを共有(Share)し、言葉の定義をして(Set)ディスカッション(Spread)に入り、需要なアイデアを選択(Select)して次のアクションを決定までたどり着きました。当日の会議時間が2時間に対して、丸一日(8時間ぐらい?)は準備にかかったので、段取り重要・・・と常々痛感。
同書ではフレームワークの種類や詳細な使い方についてはある程度割愛されているので、それについては別途ネットなりビジネスフレームワーク本、論理思考やロジカルシンキングの書籍を当たるとよいと思いました。そういえば、ある友人が、フレームワークの活用は時として思考停止に陥る場合があるから、あまり好きではないといっていたことを思い出しました。確かにフレームワークだけにこだわりすぎるとそういう結果にはなるかも・・・。一方で、今回実践で使った印象では、議論の切り口としてそれらのフレームワークを活用するのは有効だなと思いました。

コメント