読書録『参謀の思考法 - トップに信頼されるプロフェッショナルの条件』

本書は、日本企業における企業参謀としての22つの思考法を、紹介している書籍です。ただの部下から、企業をリードする責任者たちの良き参謀として何が必要か?をコンパクトにまとめています。何もCEOの秘書でなくても上司を持つ社会人で、組織人としての役割を果たすため求められる思考法が多数取り上げられています。

なお、著者である荒川氏は新卒でブリジストンに入社し、現場たたき上げで、タイ現地法人社長、ヨーロッパ現地法人社長等を経て2006年に同社CEOに就任した方です。


本のタイトル

参謀の思考法 トップに信頼されるプロフェッショナルの条件

著者

荒川 詔四

出版社

ダイヤモンド社

分類(ビジネス書、技術書など)

ビジネス書

発行日

202063

この本を読むきっかけ

企業の経営層がどのようなビジョンをもって戦略を立て意思決定をするのか、といったビジネス本はたくさん出回っていますが、企業トップのサポート役のビジネス書は目新しいのではないでしょうか。

企業トップのサポート役といえば役員秘書といったイメージしかありませんでしたが、それを本書ではただのフォロワーではない、プロフェッショナルとしての「参謀」という表現を使っている点が他の書籍と違うところでしょう。私は、上司との関係性においてただの従うのではなく組織のためにどう動くべきか、というヒントがあるのではという期待をもってこの本を手に取りました。


本書で気になったポイント3点


①Cool head but worm heart. 

世の中には部下と上司を取り巻くストレスネタであふれています。これは、相性の良い上司に恵まれる機会はとても少ないという状況をよく表していると思います。

著者は、上司に接する際に好き嫌いで判断すること自体が論外であるとしています。上司といっても、会社のある機能をを果たすべき「機関」。そうとらえて、最大限に機能するようにサポートすることこそ「参謀」に求められるとしています。とはいえ、人を機械的なものとして心を無にして接しろと言っているわけではありません。あくまでもその「機関」が機能するようには、相手への理解を深め、相手がどような思考で組織のためにどう動くのかを予測しながらサポートしていくということが大切であるとしています。


②参謀は「自分の言葉」で語る

本書における「参謀」は、意思決定を持たずあくまでも上司の支援者であると繰り返しています。しかし、ただのメッセージボーイになっては自分の価値はないのです。参謀はその上司が進めたいと考えている「意思」を実現するために、現場の調整役をすることが求められます。そのためには、上司の意思、背景、目的、それをおし進める理由などを十分に消化したうえで、自分の言葉で語れるようにならなくてはならないと、著者は言っています。


自身の経験から鑑みても、ただの伝書鳩として伝えなくてはならない時、相手を説得することが難しいと感じました。それだけならいったん引き下がって再整理して挑むということもできます。しかし、自分の後ろに権力者が見えているような依頼ごとの場合、依頼を受けた人はその場は引き受けてくれても実際のところは十分な協力体制を期待できないといったことが起こりえるのです。(面従腹背)人が人の言葉に動かされるのは、その言葉に説得力があり、思いを受け取るからではないでしょうか。

時に「言いたいことがあれば、きちんと反論し議論の場に上げればいいじゃないか」という意見も聞きますが、少なくとも日本の伝統的なヒエラルキーにおいては、そんなことをするとどうなるか、想像に難しくありません。



③参謀が死守すべきは「中立性」

②では上司の「意思」を適切に伝えて各部門と調整の上遂行するといっていますが、実は参謀には死守すべき中立性があるといいます。


社内には様々な組織、思想を持ったグループが存在します。本書では「派閥」という表現を使っていますが、その中にはセクショナリズムが存在し、各「派閥」が置かれた立場によって「正論」が異なるということを理解しておく必要があるといいます。その上で、組織としての全体最適を見出し、異なる派閥や意見を持つ人々との適切な調整活動をすることが参謀の仕事でもあります。


しかし、ここで上司が行ったこと通す前に、やるべきことはその「意思」は組織人として「原理原則」に沿っているかと照らし合わせることが大事だとしています。


例えば、上司と同じ派閥から持ち込まれた案件を政治的な配慮をするのではNG。逆に、反対勢力から持ち込まれた案であっても、企業として、また企業の「機関」に求められていることと照らし合わせてから、組織の未来に与するものであれば採用を提案するべきだとしています。あくまでも感情は外、組織としての原理原則と照らし合わせて冷静に判断できなくてはなりません。



まとめ:参謀は上司の意思を理解したうえで、苦言を呈することもいとわない姿勢が大切。

前職では、だれであれ発言しやすい組織風土があり、「言いたいことがあれば、きちんと反論し議論の場に上げていこう」という考えは組織全体にありました。


しかし、転職して知るった現実はそう甘くもありません。少なくとも日本の伝統的なヒエラルキーにおいては、そんなことをするとどうなるか。企業に雇われる社会人として生活していると、上司との関係性において、従っておいた方が楽だとか、安全だという判断もあるでしょう。そんな中、自分の意見を出すことはとても勇気のいることだと思います。


自分もまた組織活動の一部の要素だと考えると、時に葛藤があっても「原理原則」に照らし合わせて苦言を呈すことも意識していきたいと再認識する本でした。

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